5.2 ISO/IEC 17025の適用方針
JCSSでは、関係法令の規定に対して、審査基準との整合を図るため、一部の要求事項について適用方針を定めた。登録事業者及び申請事業者は、審査基準に関し次の5.2.1項から5.2.7項に適合しなければならない。
5.2.1 測定の不確かさの推定(ISO/IEC 17025 5.4.6項)
(1) 最高測定能力の根拠は、測定の不確かさの推定を記述した文書で明確にしなければならない。
(2) JCSS校正事業においては、その登録校正における測定の不確かさは、登録された最高測定能力より小さい数値であってはならない。
JCSS校正事業においては、測定結果をGUMに基づいて評価し、拡張不確かさの形で測定結果とともに表示することを原則とする。この場合において校正証明書に記載する拡張不確かさは信頼の水準約95%に対応する区間とし、包含係数 k を決定すること。なお、包含係数2が信頼の水準約95%に対応する区間を与える場合、 k = 2を採用する。ただし、タイプA又はタイプBによって評価された不確かさについて、ある要因の自由度が全体の不確かさの有効自由度に重大に寄与する場合は、その場合の有効自由度を評価し、GUM付属書Gに従って適切な包含係数 kを算出し、校正証明書に表記しなければならない。
5.2.2 校正証明書(ISO/IEC 17025 5.10項)
5.2.2.1 校正証明書の様式
校正証明書は、技術分野ごとに定めた技術的要求事項適用指針に規定する様式がある場合には、その様式を参考として登録事業者が定め、認定センターに提出した様式を使用すること。
なお、付属書1に校正証明書の1ページ目の様式例を示す。
5.2.2.2 校正証明書への署名等
(1) 校正証明書発行責任者:
校正証明書の発行(承認)に責任を有する者は、認定センターに校正証明書発行責任者として届け出ること。また、必要であれば、校正証明書発行責任者の不在の場合に備えて代理者を指名すること。校正証明書発行責任者及び代理者は複数名置いてもよい。
(2) 署名等:
校正証明書発行責任者は、校正証明書に署名又は同等の識別を付すこと(計量法施行規則第94条第1項第3号関連)。署名又は同等の識別については電子的な媒体による作成を行ってもよい。ただし、この場合、署名又は同等の識別は個人を特定できるものであり、不正な複製に対する安全保護がなされていること。
5.2.2.3 記載事項
校正証明書の記載事項は次のとおりとするほか、ISO/IEC 17025の5.10.2項及び5.10.4項の規定、計量法施行規則第94条及びこの一般要求事項の8.項に定める標章の使用に関する規定のとおりとする。
(1) 計量器の校正等を行った計量器又は標準物質の名称、製造者名及び器物番号又は容器番号は、当該計量器又は標準物質を特定することができるものとする(計量法施行規則第94条第5号関連)。
(2) 計量器の校正等の依頼をした者の住所については、顧客から要求があった場合には、都道府県名のみの記載としてもよい。
(3) 登録事業者が計量器又は標準物質を自ら販売し、又は貸し渡すことを目的とし、校正証明書に計量器の校正等を依頼した者の氏名又は名称及び住所の記載を省略する場合、必要に応じて、その理由を校正証明書に記載することができる。
例えば、「この校正証明書は、校正証明書付き計量器の販売を目的とし、販売前に当校正室で校正を実施した結果に基づいていますので、校正の依頼者名及び住所は省略しています。」と記載することができる。
(4) 校正証明書には、校正等の結果(「計量器の校正等により得られた値」をいう。以下同じ。)及び測定の不確かさを必ず記載するものとする。測定の不確かさには、包含係数 k 及び信頼の水準約95%に対応する区間である旨を併記するものとする。また、包含係数 k が2よりも大きい場合は、有効自由度に関する情報を記載することができる。
(5) 校正等の結果及び測定の不確かさに付随する情報として、校正結果の解釈に必要な場合は特定された計量仕様若しくはその項目に対する適合性の表明を、校正証明書に含めてよいものとする(計量法施行規則第94条第1項第6号及びISO/IEC 17025 5.10.4.1 b)項関連)。適合性の表明を行う場合には、5.2.2.4項に従うこと。
(6) 計量器の校正等の年月日については、校正等に要したすべての実施年月日(期間であってもよい)又は実施期間のうち最終日を記載するものとする。
(7) 校正証明書には、計量法第144条第1項に係る校正証明書である旨の記載をしなければならない。また、発行者の書面による承諾がない限り、この校正証明書の一部分のみを複製して用いてはならない旨についても記載するものとする。なお、国家計量標準にトレーサブルである旨の記載については、併せて行ってもよいものとする。これらの記載文例は、付属書1に示す。
(8) 校正証明書には、ISO/IEC 17025又はJIS Q 17025に適合している旨の表記を行ってもよい。この場合の記載文例については、付属書1の様式例2を参照のこと。
5.2.2.4 規格適合性の表明
(1) 特定された計量仕様若しくはその項目に対する規格適合性の表明を行う場合は、校正結果とは明確に区別して記載すること。また、校正証明書内に計量仕様に関する情報を記載しなければならない。
備考1: 特定された計量仕様とは、国内規格、国際規格、工業会基準、メーカースペック、JCSS登録事業者が独自に定めた仕様(基準)、顧客が独自に定めた仕様(基準)等において計量仕様と判断できるものが対象となる。
備考2: 計量仕様の技術的妥当性の確認はJCSS審査の対象外である。
(2) 特定された計量仕様への適合性の表明は、製品認証との混同を避けるために、校正事業の対象となる測定の結果についてのみの適合性の表明に限定しなければならない。すなわち、JIS製品規格やOIML規格(機能要求事項等を含む)全体への適合表明ではなく、それらの規格のどの項目(計量仕様)に適合(不適合)であるかを明確にすること。
例えば、この方針に従って、ブロックゲージの計量仕様への適合表明をする場合、次のように記載しなければならない。
このブロックゲージの寸法はJIS B 7506の(6.2) 寸法許容差における1級に適合しています。
(3) 適合性の表明を行う場合は、原則として付属書4に示す「規格への適合性の評価に関する指針」に従うこと。付属書4.AはAPLACが定めた「試験結果及び校正結果並びに仕様に対する適合性の表明方法」である。
顧客との合意がある場合は、付属書4以外の不確かさを考慮した判定基準を認めるが、その場合は、校正証明書に顧客との合意に基づく判定基準である旨を記載しなければならない。
備考: 顧客との合意に基づく判定基準の技術的妥当性の確認はJCSS審査の対象外である。
5.2.2.5 校正証明書の扱い
校正証明書は、1件の校正対象又は校正結果に対して複数部発行してもよいものとする。この場合においては個々の校正証明書に固有の識別を与えなければならない(ただし、熱量標準安息香酸及び濃度標準物質(標準液)についてはこの限りでない)。校正証明書の複写については、この一般要求事項の8.項に定める規定に従うものとする。
5.2.2.6 校正証明書に用いる言語
校正証明書は、英語によるものであってもよい。当面、英語以外の外国語による校正証明書は認めないものとする。
5.2.2.7 登録範囲外の結果を校正証明書に含む場合
校正証明書には、付随する情報として、登録範囲外の測定結果*備考1~3)
を含んでもよいが、その結果は登録範囲外であることが明確に識別されること。登録範囲内の測定結果が一つも含まれない場合は、JCSS標章を付した校正証明書は発行できない。
備考1: 「登録範囲外の測定結果」とは、登録を受けた校正の範囲(レンジや最高測定能力)の外の測定結果であってもよい。
備考2: 分銅校正における協定値によらない質量値算出のために必要な体積測定などは、該当する量そのものの測定ではないが、校正の結果に直接影響する測定であり、登録範囲内に含まれるべきものである。
備考3: 校正対象物が異なるような登録校正と無関係な測定結果は「登録範囲外の測定結果」とはみなされない。
5.2.2.8 手書きの校正証明書
手書きによる校正証明書の発行を認めるものとするが、この場合、校正証明書の内容は、明確かつ簡明であり、容易に消えない方法で記載されたものであること。
5.2.2.9 意見及び解釈
意見及び解釈は、JCSS登録範囲外とする。したがって、意見及び解釈は登録範囲外である旨の明確な識別がない限りJCSS標章を付した校正証明書に記載することはできない。
5.2.3 下請負契約(ISO/IEC 17025 4.5, 5.10.6項)
認定センターは、校正の下請負契約の要求事項に対して、次のとおり適用するものとする。ただし、この方針は下請負契約によって行われた校正等の結果を自身のJCSS標章を付して発行する校正証明書に登録範囲内の結果として記載する場合に適用するものであり、登録範囲外の下請負契約について制限するものではない。
(1) 申請事業者及び登録事業者は、登録を受けた範囲の中*備考1)で、校正業務の一部を下請負に出してよいものとする。この場合、下請負先は登録事業者であるか又はILAC国際相互承認に加盟する認定機関の認定を受けた校正機関並びにその国の国家計量標準研究所に限るものとする。この場合において、国家計量標準研究所は、メートル条約に基づく国家計量標準研究所間の相互承認協定に加盟し、国際試験所間比較で良好な成績を収めていることが望ましい。
(2) 登録校正業務の一部を下請負に出す場合であっても、申請事業者及び登録事業者(元請け)は、設備を含めその業務の遂行能力を有していなければならない。
(3) 登録された校正業務を下請負に出した場合には、事業者は下請負先から発行された当該下請業務に係る標章付証明書を入手しなければならない。
(4) 下請負によって実施された校正の結果を校正証明書に引用*備考2)する場合には、その結果が下請負により実施されたことについての明確な識別をしなければならない。
備考1: (1)でいう「登録範囲の中」とは、「登録に係る区分、校正手法の区分の呼称、種類、校正範囲の内側を示し、最高測定能力についてもそれより不確かさが小さくならない範囲」を意味する。
備考2: (4)でいう「引用」とは、発行する校正証明書の中に下請負先の校正結果そのものを引用する場合と下請負先から発行された校正証明書の識別番号を引用する場合があるが、識別番号を引用する場合は下請負先の校正証明書(写し)を添付しなければならない
5.2.4 現地校正
付属書2に示す「現地校正を行う場合の要求事項」に適合すること。
5.2.5 遠隔校正
付属書3に示す「遠隔校正を行う場合の要求事項」に適合すること。なお、量別の技術的要求事項適用指針等に、この要求事項の具体的な適用の指針を定める。具体化させた事項がある場合にはその具体的な指針を参考とすること。
JCRP21 JCSS 登録の一般要求事項 10/375.2.6 特定二次標準器及び常用参照標準
5.2.6.1 保有形態
登録事業に用いる特定二次標準器及び常用参照標準は申請事業者及び登録事業者が保有するものでなければならない。ここで、保有とは、所有又はリース契約など長期の使用契約を結び常に自社の管理下にあることをいう。
5.2.6.2 校正周期
計量法施行規則第93条による。
-計量法施行規則第93条-
登録事業者が計量器の校正等に用いる特定標準器による校正等をされた計量器若しくは標準物質又はこれらの計量器若しくは標準物質に連鎖して段階的に計量器の校正等をされた計量器若しくは標準物質の校正等の期間は、校正等を行った日の翌月の一日から1年とする。ただし、機構が定めるものにあっては、それぞれ別に定める期間とする。
ただし、計量法施行規則第93条で定める期間内であっても、計量器又は標準物質が滅失その他の事由により、登録事業者が行う計量器の校正等を適切に行えなくなった時は、その時点で、特定標準器、特定標準物質、特定標準器による校正等をされた計量器若しくは標準物質又はこれらの計量器若しくは標準物質に連鎖して段階的に校正等をされた計量器若しくは標準物質による校正等を受けなければならない。
備考: 「別に定める期間」とは、「計量法に基づく登録事業者の登録等に係る規程」で定めた期間である。
5.2.7 トレーサビリティ方針
申請事業者及び登録事業者は、認定センターが別に定める「IAJapan測定のトレーサビリティに関する方針」(認定-部門-URP23)に従い、登録範囲内の校正に用いる特定二次標準器等、常用参照標準、実用標準及び重要校正用機器は適切な校正によって、国際単位系等への測定のトレーサビリティを確保しなければならない。