ISO 17025内部監査チェックリストとは
ISO 17025内部監査チェックリストとは、試験所・校正機関が内部監査を効率的かつ体系的に実施するための構造化された質問や確認項目のリストです。このチェックリストは、ISO 17025の要求事項が適切に実施されているかを検証し、客観的証拠を収集するためのガイドとして機能します。
内部監査チェックリストの役割と特徴
内部監査チェックリストは以下のような役割と特徴を持ちます:
- ISO 17025のすべての要求事項をカバーし、重要な項目の見落としを防止します
- 異なる監査員や監査時期でも同様の基準で監査を実施できます
- 何を確認し、どのような証拠を収集すべきかの指針となります
- 監査プロセスを体系化し、時間と労力を効率的に活用できます
- 組織の特性や活動内容に応じて適切にカスタマイズできます
内部監査チェックリストの構成
一般的なISO 17025内部監査チェックリストには、以下の要素が含まれます:
- 項目番号: チェックリスト項目の識別子
- ISO 17025の該当条項: 規格の対応する章・節・項の参照情報
- 確認事項: 監査で確認すべき具体的な質問や項目
- 適合状況の記録欄: 適合/不適合/該当なしなどの評価結果を記録する欄
- 証拠・所見欄: 確認した証拠や観察事項を記録するスペース
- 備考欄: 追加情報や特記事項を記載するスペース
内部監査チェックリストの主要区分
ISO 17025内部監査チェックリストは、一般的に以下の区分に分類されます:
1. マネジメントシステム要求事項
- 組織構造と責任
- マネジメントシステムの文書化
- 文書管理
- 依頼・見積・契約のレビュー
- 外部提供の製品・サービス
- 顧客サービスと苦情
- 不適合業務の管理
- データの管理と情報マネジメント
- マネジメントシステム文書
- 記録の管理
- リスクとチャンスへの取組み
- 改善
- 是正処置
- 内部監査
- マネジメントレビュー
2. 資源に関する要求事項
- 要員
- 施設および環境条件
- 設備
- 計量トレーサビリティ
- 外部から提供される製品およびサービス
3. プロセスに関する要求事項
- 依頼、見積および契約のレビュー
- 方法の選定、検証および妥当性確認
- サンプリング
- 技術的記録
- 測定の不確かさの評価
- 結果の妥当性の確保
- 結果の報告
- 苦情
- 不適合業務の管理
- データの管理と情報マネジメント
4. 技術的側面に関する追加チェック項目
- 試験/校正方法の適用
- 測定の不確かさ計算
- 品質管理手順の実施
- 技能試験への参加
- 結果の妥当性検証
チェックリスト活用の利点
効果的なチェックリストを活用することで、以下のような利点が得られます:
- すべての重要要素を見落とさない
- 客観的証拠に基づいた監査結果
- 準備と実施の時間短縮
- 経験の少ない監査員でも一定水準の監査が可能
- 繰り返し使用することで改善の進捗を追跡
ISO 17025内部監査チェックリストは、単なる適合性チェックのツールではなく、試験所・校正機関の品質マネジメントシステムと技術的能力を継続的に評価・改善するための重要な道具として機能します。適切に設計され、定期的に更新されるチェックリストは、効果的な内部監査の実施と、最終的には高品質な試験・校正サービスの提供に貢献します。
ISO 17025内部監査チェックリストの作成の難しさ
ISO 17025内部監査チェックリストの作成は、一定の専門知識と経験を必要としますが、適切なアプローチを取れば過度に難しいものではありません。以下に、作成における課題と対応策を説明します:
作成における主な課題
1. 規格の深い理解が必要
- ISO 17025の要求事項を正確に理解する必要がある
- 各要求事項の意図と背景を把握しなければならない
2. 技術的専門性の要求
- 試験・校正の技術的側面に関する知識が必要
- 特定の技術分野に固有の要素を適切に評価できる項目が必要
3. 組織の特性への適合
- 組織の規模、構造、活動に合わせたカスタマイズが必要
- 汎用的なチェックリストでは不十分な場合が多い
4. 適切な詳細度の設定
- 詳細すぎると監査が煩雑になる
- 簡素すぎると重要な要素を見落とす恐れがある
5. 効果的な質問形式の設計
- 単純なYes/No回答ではなく、適合性の証拠を引き出す質問が必要
- 開放型と閉鎖型質問の適切なバランス
作成を容易にするアプローチ
1. 段階的な開発
- まず規格の構造に沿った基本的な枠組みを作成
- 徐々に組織固有の要素を追加・調整していく
2. 既存のリソースの活用
- 認定機関が提供するガイダンス文書を参考にする
- 業界団体のテンプレートやサンプルを基に作成する
3. 分担と協力
- 品質管理担当者と技術専門家が協力して開発
- 各技術分野の専門家が関連部分をレビュー
4. 継続的な改善
- 実際の監査経験を基に定期的に見直し・更新
- 監査員からのフィードバックを反映
5. モジュール式の設計
- 共通部分と技術分野別の部分を分けて設計
- 必要に応じて組み合わせて使用できるようにする
チェックリスト作成のヒント
- 規格の各項目を「何を」「どのように」確認するかの視点で質問に変換する
- 一つの質問で複数の要求事項を確認しないよう注意する
- チェックリストにメモスペースを十分設ける
- 確認すべき文書や記録の例を明記する
- 組織の過去の不適合や弱点に対応する項目を重点的に含める
ISO 17025内部監査チェックリストの作成は初めは挑戦的に感じるかもしれませんが、上記のアプローチを活用すれば、効果的で使いやすいチェックリストを段階的に開発することが可能です。また、一度作成したチェックリストは定期的に改訂することで、組織の成熟度に合わせて継続的に進化させることができます。
ISO 17025内部監査チェックリストの落とし穴
内部監査チェックリストを使用する際に陥りやすい落とし穴を箇条書きで説明します:
1.チェックリストに頼りすぎて、明らかな問題を見逃す
2.項目をチェックするだけの機械的な監査になる
3.文書の存在確認だけで、実際の運用状況の確認が不十分
4.「あります」という回答だけで満足し、証拠の確認を怠る
5.マニジメントシステム要素に比べ、技術的要素の確認が不足
6.測定の不確かさや妥当性確認などの技術的深掘りが不足
7.組織の特性や活動に合わせたカスタマイズをしない
8.特定の試験・校正分野の固有リスクを反映していない
9.個別要素のチェックに集中し、プロセス間の関連性を見落とす
11.マニジメントシステム全体としての有効性評価が不足する
12.Yes/No回答のみを求める質問が多く、改善の機会を特定できない
13.なぜ、どのように、という深掘りの質問が少ない
14.確認した証拠の記録が不十分
15.「適合」と評価した根拠が不明確
16.重要度の高い項目と低い項目の区別がない
17.特に注意すべき高リスク領域の強調がない
18.規格改訂や認定機関の新要求事項が反映されていない
19.古いチェックリストを更新せずに使い続ける
20.項目数が多すぎて時間内に完了できない
21.重要項目と詳細項目の区別がつかない
22.質問の意図が不明確で解釈が分かれる
23.専門用語の定義が不明確
24.組織変更や新規活動に対応したチェックリストの更新が遅れる
25.旧組織構造を前提とした質問が残っている
26.過去の不適合に対する是正処置の有効性確認が不十分
27.再発防止策の検証項目がない
28.チェックリスト自体のバージョン管理が不十分
29.どのバージョンの規格や手順書に基づいているかが不明確
30.何をもって適合/不適合と判断するかの基準が不明確
31.監査員による判断のばらつきが生じる
効果的な内部監査を実施するためには、これらの落とし穴を認識し、チェックリストを単なるツールとして適切に活用することが重要です。最終的には、監査員の専門知識と判断力がチェックリストを補完することで、真に価値ある監査結果が得られます。
ISO 17025内部監査チェックリストの作成の成功法
効果的なISO 17025内部監査チェックリストを作成するための成功法を以下に示します:
1. 目的を明確化する
- 単なる適合性確認だけでなく、改善機会の特定を目的に位置づける
- 技術的能力の評価と品質システムの有効性確認のバランスを意識する
2. 規格の徹底理解から始める
- ISO 17025の各要求事項の意図と背景を深く理解する
- 2017年版の重要な変更点(リスクベースアプローチ、プロセス思考など)を反映する
3. 構造化されたフォーマットを採用する
- 規格の構造に沿った体系的な構成にする
- 各項目に以下の要素を含める:
- 規格条項番号
- 確認事項
- 適合状況記録欄
- 証拠/所見記録欄
- 改善の機会記録欄
4. 効果的な質問設計
- 「なぜ」「どのように」「どのような証拠で」を引き出す質問を含める
- 単純なYes/No質問と詳細確認質問をバランスよく配置する
- 具体的な証拠を求める質問にする(「〇〇の記録を確認してください」など)
5. リスクベースアプローチを取り入れる
- 重要度の高い項目を明確に識別する
- 過去の問題領域に関連する項目に重点を置く
- 技術的リスクの高い活動に対する詳細な確認項目を設ける
6. 技術分野別にカスタマイズする
- 試験/校正の種類ごとの特有の技術的要素を反映する
- 特定の技術分野の規制要求事項や推奨事例を組み込む
- 測定の不確かさや妥当性確認に関する分野別の具体的確認項目を含める
7. プロセス間の関連性を意識する
- プロセスの流れに沿った質問を配置する
- 上流と下流のプロセスの関連性を確認する質問を含める
- プロセスの有効性を評価する項目を設ける
8. 実践的な証拠収集ガイドラインを含める
- 確認すべき記録や文書の例を具体的に記載する
- サンプリング方法の指針を提供する(例:過去3か月の記録から5件を抽出など)
- インタビュー対象者の推奨リストを含める
9. パイロット使用と改善
- 初版チェックリストを限定的な監査で試用する
- 監査員からのフィードバックを収集し反映する
- 実際の使用経験に基づいて改訂を重ねる
10. 使いやすさを重視する
- 過度に複雑化せず、監査員が実際に使いこなせる内容にする
- 電子フォーマットの場合は入力しやすい設計にする
- 重要なガイダンスや参照情報を適切に含める
11. 継続的な更新の仕組みを構築する
- 更新の責任者と頻度を明確に定める
- 規格解釈の変更や認定機関の要求事項変更を迅速に反映する
- 監査結果の傾向分析に基づいて定期的に見直す
12. 柔軟性を持たせる
- 監査員の専門的判断の余地を残す
- 特定の状況で追加調査が必要な場合のガイダンスを含める
- 「該当なし」の項目を適切に識別できるようにする
効果的なチェックリストは単なる質問の羅列ではなく、監査プロセス全体をガイドする戦略的ツールです。組織の特性や技術的活動を反映し、継続的に改善されることで、ISO 17025に基づく品質マネジメントシステムの成熟と発展に貢献します。
ISO17025内部監査のチェックリストを使用する人
弊社の内部監査チェックリストの採用をご検討下さい。
- 品質管理者;試験所の品質システム全体を統括し、内部監査プログラムの計画・実施に対する最終責任を持ちます。ISO17025の要求事項への適合性を確保する中心的役割を担います。規制要件やISO17025規格への適合性を評価・確保する責任を持ち、内部監査チェックリストの内容が最新の規格要求事項を反映しているか確認します。
- 技術管理者: 試験・校正の技術的側面を管理する責任者で、特に技術要求事項に関連する内部監査項目を確認します。方法の妥当性確認や測定の不確かさなどの技術的な監査に深く関わります。
- 内部監査員リーダー: 大規模な組織では、内部監査専門の責任者を置くこともあり、監査計画の立案から実施、フォローアップまでを担当します。
- 試験室長: 試験所全体の運営責任者として、内部監査の結果をレビューし、必要な経営資源の配分や是正処置の承認を行います。
- 内部監査員: 内部監査を実際に実施する担当者で、チェックリストを直接使用して監査を行います。品質部門のスタッフや、監査対象とは独立した部門から任命されます。
- 試験結果証明者: 試験員の試験の実施の結果について評価し、その試験結果に対して証明する責任者です。
弊社の内部監査チェックリストの特徴と利点
弊社の内部監査チェックリストは、
ISO17025要求事項の項番別に作成されていて、そのうえで、監査対象別(品質管理者,技術管理者、試験室長、試験員など)に分けて作成されていますので、そのまま使えます。
サンプルを見て下さい
8.8 内部監査(選択肢A)
8.8.1 ラボラトリは,マネジメントシステムが次の状況にあるか否かに関する情報を提供するために,あらかじめ定めた間隔で内部監査を実施しなければならない。
- a) 次の事項に適合している。
- ラボラトリ活動を含めた,ラボラトリ自体のマネジメントシステムに関する要求事項
- この規格の要求事項
- b) 有効に実施され,維持されている。
8.8.2 ラボラトリは,次の事項を行わなければならない。
- a) 頻度,方法,責任,要求事項の立案,及び報告を含む,監査プログラムを計画し,確立し,実施し,維持する。監査プログラムは,関連するラボラトリ活動の重要性,ラボラトリに影響を及ぼす変更及び前回までの監査の結果を考慮に入れなければならない。
- b) 各監査について,監査基準及び監査範囲を定める。
- c) 監査の結果を関連する管理要員に報告することを確実にする。
- d) 遅滞なく,適切な修正及び是正処置を実施する。
- e) 監査プログラムの実施及び監査結果の証拠として,記録を保持する。
注記 JIS Q 19011 は,内部監査に関する指針を示している。