第11章 リスクマネジメントシステム(7.1)
1.目的
本規定の目的は,当社が扱う医療機器に関連するリスクマネジメントのプロセスを明確にし、
ハザードを特定し,関連するリスクの推定及び評価を行い,これらのリスクをコントロールし
そのコントロールの有効性を監視し、ユーザーが安心・信頼をして当該製品を利用できること
を確実にすることを目的とする。
2.適用範囲
当社の医療機器に関するリスクアセスメント(準備・計画、リスク分析、評価、
コントロール、製造後情報の利用等)について適用する。
3.責任及び権限
リスクアセスメント及び管理策に関する責任は,品質保証部長にある。
4.文書化した情報
ISO14971:2019(医療機器-医療機器へのリスクマネジメントの適用)
リスクマネジメント計画書 7.1-01
ハザード及び危険状態一覧表 7.1-02
事象及び周囲の状況 7.1-03
ハザード、予見可能な一連の事象,危険状態と起こり得る危害との関連 7.1-04
リスクアセスメントシ-ト 7.1-05
リスクコントロール手段実施記録 7.1-06
リスクマネジメント報告書 7.1-07
有資格者一覧表 6.2-04
5.実施事項
(1)リスクマネジメント担当者の資格認定
医療機器についての専門知識があり、業務プロセスの評価・分析、改善提案に従事し、
内部監査またはリスクマネジメントに関する実務経験が5年以上あり、工場長の推薦で、
管理責任者の承認をうけた人。
(リスクマネジメント担当者)
・受容可能なリスク決定のための方針を定める。
・適切なリスクマネジメント活動が円滑に行われることを確実にするため、必要な資源を
準備する。
・定期的なリスクマネジメント評価により、リスクマネジメント活動の結果を審査する。
(2)「リスクマネジメント計画書」の作成
リスクマネジメント担当者は, 下記について計画書に記入し、作成し管理責任者の承認をえる。
- 分析を行った医療機器の特定及び説明
- リスク分析を行った人及び組織の特定
- リスク分析の適用範囲及び行った日付
- リスクの受容可能性についての判断基準
e)リスクマネジメントレビューの責任者
(3)リスク分析
リスク分析について下記の順序で行う。
- 意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用の特定
- 安全に関する特質の明確化
- ハザード及び危険状態の特定
- 各危険状態のリスクを推定する
- 意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用の特定
リスク担当者は,分析対象とする医療機器の意図する使用, 合理的に予見可能な
誤使用について「意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用の特定」に特定する。
この文書は,リスクマネジメントファイルに維持する。
意図する使用は,例えば,意図する医学的適応,患者集団,相互に作用し合う対象の体の部分
又は生体の組織,ユーザープロファイル,使用環境,動作原理などの情報を考慮する。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
- 安全に関する特質の明確化
リスク担当者は,分析対象とする医療機器について,医療機器の安全に影響する定性的及び
定量的特質を特定し,「安全に関する特質の明確化」に文書化する。該当する場合,リスク担当
者は,それらの特質の限度値を決定する。この文書は,リスクマネジメントファイルに
維持する。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
- ハザード及び危険状態の特定 リスク担当者は,医療機器についての既知及び予見可能なハザードを,意図する使用,合理的に予見可能な誤使用及び安全に関する特質に基づいて,正常状態及び故障状態の両方において「ハザード及び危険状態一覧表」に特定する。
特定した各ハザードに対して,リスク担当者は,危険状態を起こすような合理的に予見可能な一連の事象又は事象の組合せを検討し,その結果起こる危険状態を特定し,「ハザード及び危険状態一覧表」に特定する。
- 各危険状態のリスクを推定する
リスク担当者は, 「ハザード及び危険状態一覧表」の危険状態について,利用可能な情報又はデータを用いて関連するリスクを推定する。
「リスク推定点」=「危害の発生確率」×「危害の重大さ」
「リスクアセスメントシ-ト」を用いる。
危害の発生確率及び危害の重大さの定性的又は定量的な分類に用いた方法は,リスク
マネジメントファイルに記録する。
リスクマネジメントプロセス
危害の大きさは,危害発生の重大性を考慮して評価する。
≪危害の大きさ(危害の程度)》
評価点 | 重大性 | 想定する危害の程度 |
5 | 破局的な | 患者の死亡 |
4 | 重大な | 永続的な傷害又は生命を脅かす傷害 |
3 | きわどい | 専門家による医学的介入を必要とする傷害又は障害 |
2 | 軽微な | 専門家による医学的介入を必要としない一時的な傷害又は障害 |
1 | 無視できる | 不都合又は一時的な不快 |
危害発生の可能性は,発生の確率を考慮して評価する。≪危害発生の可能性(事故の頻度)》
評価点 | 可能性 | 確率の範囲 | 事故の頻度 |
5 | 頻繁 | 10-3 以上 | このレベルは故障の影響により、製品が主たる原因となって、患者の死を引き起こす可能性があることを示す。
製品が、治療を提供できないことは、製品が主たる原因となって、患者の死亡を引き起こしたとはみなされない。 |
4 | 可能性が高い | 10-4 以上 10-3 未満 | このレベルは、患者に治療を提供できなくなるような高い程度の製品の性能不良を示す。この種類の故障は、製品の使用を改善または中止するために外科的処置を必要とする。 |
3 | 時々 | 10-5 以上 10-4 未満 | このレベルでは製品の劣化、性能劣化が一般的である。すなわち、医師、あるいは患者が容易に気づくレベルである。
このレベルの故障は、顧客からの軽微な苦情患者への軽微な化の可逆的な損害、医師による早期処置を引き起こす可能性がある。また、最終的な製品寿命を短くする場合がある。この種類の故障は外科的処置を必要とする場合がある。 |
2 | わずかに | 10-6 以上 10-5 未満 | この種類の故障は、わずかな製品の劣化に繋がる。医師はシステムへの影響に気づく可能性があるが、不都合を感じる可能性は低い。
患者がこの故障の影響に気づく可能性は低い。この種の故障は、一般的に製品のプログラミング、または再設定をすることによって解決することができる。 |
1 | 起こりそうにない
|
10-6 未満 | 製品に劣化作用を引き起こすと合理的に予想されない軽度の故障医師または患者は、この故障の影響に気づくことはほとんどない。 |
④算定式
評価点を掛け算し,リスク総合点を算出する。
「リスク総合点」=「危害の大きさ」×「発生の可能性」
次の表によってランク分けをし,対応を決める。
≪ランク分け表》
リスク総合点 | 対 応 |
20点以上 | 許容できない。直ちに中止または改善が必要 |
19点以下
15点以上 |
重大な問題がある。 |
14点以下
10点以上 |
軽微なリスクに対して,リスクを除去または低減するための処置が必要 |
9点以下
5点以上 |
許容できる。残存リスクに対して,日常的な管理を行う |
4点以下 | ほとんど残存リスクはなく,対策は不要 |
≪ランク分けのマトリックス表》
危害の大きさ | ||||||
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | ||
発
生 の 可 能 性 |
5 | 25 | 20 | 15 | 10 | 5 |
4 | 20 | 16 | 12 | 8 | 4 | |
3 | 15 | 12 | 9 | 6 | 3 | |
2 | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | |
1 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
(3)リスクの評価
上記ランク分けのマトリックス表において,リスクが大きい16点以上のハザードについて,
除去または低減策をとって取組むことを確実にする。
(4)リスクコントロール
リスクコントロール手段の選択
リスク担当者は,リスクを受容可能なレベルまで低減するための適切なリスクコントロール
手段を決定し, 「リスクアセスメントシ-ト」に記入する。リスク担当者はは,次の優先順位に
従って一つ以上のリスクコントロール手段を用いる。
- 本質的に安全な設計及び製造
- 医療機器自体又は製造プロセスにおける保護手段
- 安全に関する情報,及び適切な場合,ユーザートレーニング
リスクコントロール手段の選択の一部として,関連する規格を適用する。
選択したリスクコントロール手段は,リスクマネジメントファイルに記録する。
リスクコントロール手段を選択するときに,リスク担当者は,リスク低減が現実的でないと
判断した場合は, 残留リスクについてベネフィット・リスク分析を実施する。
「リスクアセスメントシ-ト」に記入する。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
リスクコントロール手段の実施
リスク担当者は,上記で選択したリスクコントロール手段を実施し、「リスクコントロール手段
実施記録」に記する。
各リスクコントロール手段の実施を検証し,その検証をリスクマネジメントファイルに記録
する。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
残留リスクの評価
リスク担当者は,リスクコントロール手段の実施後の残留リスクを,「リスクマネジメント
計画書」で定義したリスクの受容可能性についての判断基準を用いて評価する。
この評価の結果の「リスクアセスメントシ-ト」は,リスクマネジメントファイルに記録する。
残留リスクが,この判断基準を用いて受容可能と判断されない場合は,更にリスクコントロール
手段を検討する(リスクコントロール手段の選択に戻る。)。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
ベネフィット・リスク分析
リスクマネジメント計画で確立した判断基準に照らし残留リスクが受容できないと判断し,
かつ,それ以上のリスクコントロールも現実的ではない場合,リスク担当者は,意図する使用
のベネフィットが残留リスクを上回るか否かを判断するために,データ及び文献を収集し
レビューする。
この証拠から,ベネフィットがこの残留リスクを上回るという結論が裏付けられない場合は,
リスク担当者は,医療機器又はその意図する使用を変更する。(意図する使用及び合理的に
予見可能な誤使用の特定に戻る。)。そうでない場合は, このリスクは受容できないものとし
て残る。
ベネフィットが残留リスクを上回る場合は,事項の“リスクコントロール手段によって発生し
たリスク”に進む。
ベネフィット・リスク分析の結果「リスクアセスメントシ-ト」は,リスクマネジメントファ
イルに記録する。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
リスクコントロール手段によって発生したリスク
リスク担当者は,リスクコントロール手段の影響を次の点に関してレビューする。
- 新たなハザード又は危険状態が発生しないかどうか
- 既に特定した危険状態について推定したリスクがリスクコントロール手段の導入に
よって変わらないかどうか
新たに発生,又は増加した全てのリスクには,リスク推定から~ベネフィット・リスク分析
を適用する。このレビューの結果「リスクアセスメントシ-ト」は,リスクマネジメント
ファイルに記録する。適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
リスクコントロールの完了
リスク担当者は,特定した全ての危険状態から発生するリスクを検討しており,全てのリスク
コントロール活動が完了されることを確実にするために,リスクコントロール活動をレビュー
する。
このレビューの結果「リスクアセスメントシ-ト」は,リスクマネジメントファイルに記録する。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
全体的な残留リスクの評価
全てのリスクコントロール手段が実施及び検証された後,リスク担当者は,全ての残留リスクの
寄与を考慮し,意図する使用のベネフィットとの関連において,リスクマネジメント計画で
確立した全体的な残留リスクの受容可能性についての評価方法及び判断基準を用いて,
医療機器の全体的な残留リスクを「リスクアセスメントシ-ト」で評価する。
全体的な残留リスクを受容可能と判断した場合,リスク担当者は,重大な残留リスクを
ユーザーに通知し,残留リスクを開示するために必要な情報を附属資料に記載する。
意図する使用のベネフィットに関連して,全体的な残留リスクを受容できないと判断した
場合は,リスク担当者は,追加のリスクコントロール手段を実施すること(リスクコント
ロール手段の選択に戻る。),又は医療機器若しくはその意図する使用を変更すること
(意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用 に戻る。)を検討する。
そうでない場合は,全体的な残留リスクは受容できない。
全体的な残留リスクの評価結果「リスクアセスメントシ-ト」は,リスクマネジメント
ファイルに記録する。
適合性は,リスクマネジメントファイル及び附属資料の調査によって確認する。
リスクマネジメントのレビュー
リスク担当者は,医療機器の市場出荷に先立ってリスクマネジメント計画の実行についてレビュ
ーする。このレビューでは,少なくとも次を確認する。
- リスクマネジメント計画が適切に実施されている。
- 全体的な残留リスクが受容可能である。
- 製造及び製造後の段階において,情報を収集しレビューする適切な方法が定められている。
このレビューの結果は「リスクマネジメント報告書」に記録して維持し,リスクマネジメント
ファイルに含める。
そのレビューの責任者には,リスクマネジメント計画で指定した適切な権限をもつ者を
選ばなければならない[4.4 b)参照]。
適合性は,リスクマネジメントファイルの調査によって確認する。
(6)危険源,リスク及び機会の評価の文書化した情報は,「第1章 文書化した情報」の
定めに従い,管理する