URP24-01
IAJapan 技能試験に関する方針
(第 1 版)
平成 23 年 8 月 1 日
独立行政法人製品評価技術基盤機構
認定センター
IAJapan 技能試験に関する方針
1. 目的
この文書は、独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター(以下「IAJapan」という。)が運営する試験事業者、校正事業者及び標準物質生産者の認定・登録プログラムにおいて、これらの認定・登録の対象となる事業者が関連する法令、規格、規程等で定められた技能試験に関する要求事項等に適合することを確実にするため、IAJapan が次に掲げる種類及び方針を示すことを目的とする。
(1) IAJapan が利用可能な技能試験等の種類
(2) 技能試験に関する基本方針
(3) 認定・登録プログラムごとの技能試験要求事項の適用方針
(4) 適切な技能試験がない又は現実的でない分野における代替手法に関する方針
(5) 技能試験参加計画についての IAJapan からの情報提供に関する方針
(6) 技能試験提供者に対する IAJapan からの情報提供に関する方針
2. 適用範囲
IAJapan が運営する認定・登録プログラムのうち、次に掲げるものを対象とする。
(1) MLAP(計量法特定計量証明事業者認定制度)
(2) JCSS(計量法校正事業者登録制度)
(3) JNLA(工業標準化法試験事業者登録制度)
(4) ASNITE(製品評価技術基盤機構認定制度)のうち、試験事業者(製品認証機関の試
験所を含む。)、校正事業者又は標準物質生産者を対象とするもの
3. 引用法令、規格、規程等
この文書では、次に掲げる法令、規格、規程等を引用する。規格、規程等のうち、発行年又は版の記載がないものは、その最新版を適用する。また、国際規格については、これらの規格のその版を翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格に読み替えてもよい。
計量法(平成 4 年法律第 51 号)
計量法施行規則(平成 5 年通商産業省令第 69 号)
工業標準化法(昭和 24 年法律第 185 号)
工業標準化法に基づく登録試験事業者等に関する省令(平成 9 年厚生省・通商産業省・運輸省令第 4 号)
ダイオキシン類に係る特定計量証明事業の認定基準(平成 14 年経済産業省告示第 77号及び平成 17 年経済産業省告示第 222 号、以下「告示」という。)
ISO 13528 Statistical methods for use in proficiency testing by interlaboratory comparisons(試験所間比較による技能試験に使用する統計的方法
ISO/IEC 17000 Conformity assessment – Vocabulary and general principles(適合性評価-用語及び一般原則)
ISO/IEC 17025 General requirements for the competence of testing and calibration laboratories(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項)
ISO/IEC 17043 Conformity assessment – General requirements for proficiency testing(適合性評価-技能試験に対する一般要求事項)
ISO/IEC Guide 99:2007 (Corrected version 2010) International vocabulary of metrology
– Basic and general concepts and associated terms(国際計量計測用
語-基本及び一般概念並びに関連用語)
JIS Q 0043-1:1998 試験所間比較による技能試験 第 1 部:技能試験スキームの開発及び運営
JIS Q 0043-2:1998 試験所間比較による技能試験 第 2 部:試験所認定機関による技能試験スキームの選定及び利用
ILAC P9:11/2010 ILAC Policy for Participation in Proficiency Testing Activities(技能試験活動への参加に関する ILAC 方針)

ILAC P13:10/2010 Application of ISO/IEC 17011 for the Accreditation of Proficiency Testing Providers(ISO/IEC 17011 の技能試験提供者認定への適用)
APLAC TC 008 Issue No. 3, 09/10 APLAC Requirements for and Guidance on the Accreditation of a Reference Material Producer and the Resulting Scope of Accreditation(標準物質生産者の認定及び認定範囲の結果における APLAC 要求事項及び指針)
APLAC PT 006 Issue No. 2, 09/10 Proficiency Testing Frequency Benchmarks(技能試験頻度ベンチマーク)
計量法に基づく登録事業者の登録等に係る規程(認定-法 B-計量法登録)
JCSS 登録の一般要求事項(認定-部門-JCRP21)
JNLA 登録の一般要求事項(認定-部門-JNRP21)
ASNITE 試験事業者認定の一般要求事項(認定-部門-TERP21)
ASNITE 校正事業者認定の一般要求事項(認定-部門-CARP21)
ASNITE 標準物質生産者認定の一般要求事項(認定-部門-RMRP21)
ASNITE 試験事業者(環境等)認定の一般要求事項(認定-部門-ENRP21)
ASNITE 試験事業者 IT 認定の一般要求事項(認定-部門-TIRP21)
ASNITE 製品認証機関認定の一般要求事項(認定-部門-PCRP21)
※ ILAC P9:11/2010 及び APLAC TC 008 Issue No. 3, 09/10 で定める、技能試験に関する国際要求事項及び地域要求事項の概要は、附属書 A を参照すること。
4. 用語
この文書では、ISO/IEC 17000、ISO/IEC Guide 99:2007(以下「VIM3」という。)、ISO/IEC 17043、関係法令及び関連する認定・登録プログラムの一般要求事項で定義される用語を適用するほか、次の用語を定義し適用する。
(1) 技能試験(PT:proficiency testing):試験所間比較による、事前に決めた基準に照らしての試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者の試験、校正又は測定のパフォーマンスの評価。
(2) 試験所間比較(ILC:interlaboratory comparison):事前に定めた条件に従って、二つ以上の試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者が、同一品目又は類似品目で行う、試験、校正又は測定の企画、実施及び評価。
(3) 技能試験提供者(PTP:proficiency testing provider):技能試験スキームの開発及び運用に関する全ての業務に責任を負う組織。
(4) 技能試験品目(PTI:proficiency test item):技能試験に用いるサンプル、製品、加工品、標準物質、機器・設備の部品、測定標準、データセット、その他の情報。
(5) 測定監査(MA:measurement audit):良く特徴付けられ及び測定された技能試験品目を、通常は唯一の試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者に送付し、この事業者の結果を、通常は NMI(国家計量標準研究所)によって提供される付与値と比較して行う、IAJapan の審査・検査プロセスに不可欠な、その事業者のパフォーマンスの評価。
5. IAJapan が利用可能な技能試験等の種類
5.1 IAJapan の審査及び認定プロセスで利用可能な技能試験又は測定監査
IAJapan が運営する試験事業者(特定計量証明事業者を含む。以下、同じ。)、校正事業者及び標準物質生産者の該当する認定・登録プログラムにおいて、その審査及び認定プロセスで利用可能な技能試験又は測定監査は、次のとおりである。
a) IAJapan が技能試験提供者として提供する技能試験又は測定監査。
b) ILAC MRA 又は APLAC MRA 署名認定機関、例えば、公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)などが技能試験提供者として提供する技能試験又は測定監査。
c) APLAC(アジア太平洋試験所認定協力機構)、IAAC(米州認定協力機構)、IRMM(標準物質及び測定研究所)、IFCC(国際臨床化学連合)、JCTLM(臨床検査医学におけるトレーサビリティ合同委員会)等の国際機関又は地域機関が指定又は主催する技能試験等。
d) 前 a)から c)以外の組織が技能試験提供者として提供する技能試験又は測定監査。この場合、技能試験又は測定監査の報告書の記載事項が適切であり、かつ、その技能試験又は測定監査が、ISO/IEC 17043 の本質的な要求事項(essential requirements)に適合していることが、IAJapan によって確認されている必要がある。
注記:ILAC MRA 署名認定機関が認定している技能試験提供者が提供する技能試験(又は測定監査)は、IAJapan によって d)が確認されているものとみなす。
これらの技能試験又は測定監査は通常、技能試験品目に関する費用に加えて、均質性、安定性、並びに技能試験品目の測定対象量の付与値及び付随する測定不確かさを確定するための測定に関する費用を含む手数料による有料サービスであり、参加者は、必要な手数料を国際機関、地域機関、技能試験提供者等に支払うことが必要である。
5.2 IAJapan の審査及び認定プロセスで利用可能な試験所間比較
IAJapan が運営する試験事業者、校正事業者及び標準物質生産者の該当する認定・登録プログラムにおいて、5.1 で定める技能試験又は測定監査が利用可能でないか、又は適切でない場合において、その審査及び認定プロセスで利用可能な試験所間比較は、次のとおりである。
A) CIPM(国際度量衡委員会)の各諮問委員会、APMP(アジア太平洋計量計画)等の基幹比較(key comparison)、補完比較(supplementary comparison)、又は特定の NMI(国家計量標準研究所)との相互比較(bilateral comparison)。
B) 技能試験以外の目的のために企画された試験所間比較。この場合、その比較に参加した事業者の満足な証拠が、その事業者の技術的能力を実証することができると IAJapanによって確認されていることが必要である。
注記:5.2 B)のような試験所間比較の例として、ILAC P9:11/2010 の 4.1 項では次のようなものが列挙されているが、これらに限定されない。
・ある手法のパフォーマンス特性(performance characteristics)の評価。
・標準物質の値付け。
・事業者自身が企画する、二以上の事業者の測定結果の比較。
6. 技能試験に関する基本方針
6.1 技能試験参加計画に関する基本方針
IAJapan に認定・登録された試験事業者、校正事業者若しくは標準物質生産者、又はIAJapan の認定・登録を受けようとする試験事業者、校正事業者若しくは標準物質生産者は、次の(1)又は(2)のいずれかの条件を満たす「技能試験参加計画」を文書化し、IAJapanの審査・検査を受けなければならない。技能試験参加計画の作成例は、附属書 B を参照すること。
(1) 認定・登録範囲に対して適切であり、職員の数、試験・校正・測定方法、使用する測定器等の変更に応じて、常に見直されなければならない“記録”。参加が計画されている個々の技能試験は、認定・登録を取得する前の活動を含めた、原則として 4 年を超えない継続的な活動として位置付けられていなければならない。
(2) 全ての認定・登録に係る区分、試験方法等の区分の特性等による括り等、認定・登録範囲に対して適切である主要な副分野ごとに、少なくとも 4 年に一回、技能試験又は測定監査を受けることの表明を含む“文書化された記述”。記述の見直しに当たっては、その根拠(理由)を記録しなければならない。
注記 1:「技能試験参加計画」の名称、様式等は問わない。一般的には、(1)は独立した又は他の品質保証計画と一体化した記録となり、(2)は品質マニュアルの“試験・校正結果の品質の保証”の章・節や、他の規程、手順書等に含まれる記述となろう。
注記 2:技能試験参加計画の見直しに当たって、特に 4 年を超えて周期を長くするとき又は事前に定めた周期どおりに技能試験を受けなかったときは、該当する記述だけでなく、その根拠(理由)も IAJapan の審査・検査の対象となり、客観的な理由が求められる。
6.2 技能試験等への参加に関する基本方針
(1) IAJapan の認定・登録を受けようとする試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者は、該当する場合、認定・登録を取得する前に、認定・登録範囲に対して適切な、5.1 で定める技能試験若しくは測定監査、又は 5.2 A)で定める試験所間比較に参加し、満足な結果を収めなければならない。
(2) IAJapan に認定・登録された試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者は、あらかじめ文書化し、IAJapan の審査・検査を受けた「技能試験参加計画」に基づき、5.1 で定める技能試験若しくは測定監査、又は 5.2 A)で定める試験所間比較に参加し、満足な結果を収めなければならない。
注記 1:「技能試験、測定監査又は試験所間比較に参加し、満足な結果を収める」ことは、技能試験又は測定監査の結果が「満足」と判定されること及び試験所間比較の結果が技術専門家によって「満足」と判定されることを意味するほか、いったん「不満足」と判定されたときであって、適切な原因究明及び必要な是正処置が実施され、その結果、技術的能力を有することが適切な証拠の提示によって実証されることをも意味する。
注記 2:このように、技能試験、測定監査及び試験所間比較は、試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者の技術的能力を実証するだけでなく、これらの事業者のパフォーマンスの品質を維持し、これを促進するツールとしても重要であるといえる。
注記 3:「認定・登録範囲に対して適切」であるかどうかは、認定・登録プログラムごとに異なり、また校正事業者、試験事業者、標準物質生産者によっても異なる。これらは、7.1から 7.4 で詳述する。
6.3 IAJapan 以外が提供する技能試験等の結果の通知に関する基本方針
(1) IAJapan に認定・登録された試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者は、5.1 b)から d)で定める技能試験又は測定監査に参加し、その結果が「疑わしい」又は「不満足」と判定されたときは、その結果を遅滞なく IAJapan に通知しなければならない。これらの事業者は、適切な原因究明を実施しなければならず、また「不満足」と判定されたときは、必要な是正処置を実施しなければならない。
(2) 前(1)において、これらの事業者の結果が「不満足」と判定された場合であって、適切な原因究明が実施されないとき、又は必要な是正処置が実施されないときは、その認定の一時停止又はその認定・登録の取り消しをすることがある。
注記:6.3 (1)において、5.1 c)又は d)で定める技能試験・測定監査であって、技能試験提供者から IAJapan に結果を通知することが確保されているときは、(1)の通知は不要である。
7. 認定・登録プログラムごとの技能試験要求事項の適用方針
6 項の技能試験に関する方針に基づく、認定・登録プログラムごとの技能試験要求事項の適用方針は、それぞれ次のとおりとする。
7.1 MLAP(国際 MRA 対象外)における技能試験要求事項の適用方針
(1) MLAP の認定を申請する特定計量証明事業者又は認定特定計量証明事業者は、告示第 1 項第十号の定めに基づき、計量証明の結果の有効性を監視するための社内規格に基づいて、5.1 a)で定める技能試験又は IAJapan が指定した 5.1 d)で定める技能試験に参加しなければならない。
(2) MLAP の認定を申請する特定計量証明事業者又は認定特定計量証明事業者は、告示第 3 項第三号第三号ロに基づき、外注(工程の一部を外部の者に行わせることをいう。)に当たって、認定機関等の要請がある場合は、外注先が技能試験への参加を行うことを、外注先と合意しなければならない。
注記:7.1 において、IAJapan が指定した 5.1 d)で定める技能試験は、その報告書の適切性はIAJapan によって確認されているものとみなす。
7.2 JCSS における技能試験要求事項の適用方針
(1) JCSS の認定・登録を申請する校正事業者は、認定・登録の前に、認定・登録に係る区分のうち、少なくとも一つの申請に係る校正手法の区分について、5.1 で定める技能試験又は測定監査の何れかに参加し、満足な結果を収めなければならない。
(2) JCSS の認定事業者は、6.1 で定める「技能試験参加計画」を作成すると共に、これに基づき、継続的に 5.1 で定める技能試験又は測定監査に参加し、満足な結果を収めなければならない。また、6.3 で定める方針に適合しなければならない。
(3) JCSS の登録事業者は、ISO/IEC 17025:2005 5.9 項で定める試験・校正結果の品質の保証の一環として、6.1 で定める「技能試験参加計画」を作成すると共に、これに基づき、継続的に 5.1 で定める技能試験又は測定監査に参加することが望ましい。これらの技能試験又は測定監査に参加したときは、満足な結果を収めると共に、6.3 で定める方針に適合しなければならない。
(4) 適切な技能試験・測定監査がない又は現実的でない分野における代替手法に関する事項は、この規程の 8.で別に定める。
注記 1:7.2 (1)から(3)において、5.1 d)で定める技能試験・測定監査のうち、技能試験提供者から IAJapan に結果を通知することがあらかじめ確保されているものは、その報告書の適切性は IAJapan によって確認されているものとみなす。
注記 2:7.2 (4)で定める技能試験・測定監査が現実的でない分野について、現在想定されるケースはない。ただし、今後このようなケースがあった場合は、JCSS の認定・登録を申請する校正事業者又は JCSS 認定・登録事業者は、その事業者のパフォーマンスが評価され監視される代替手法について、なるべく 初回認定・ 登録時までに、IAJapan と合意することが望ましい。
7.3 JNLA における技能試験要求事項の適用方針
(1) JNLA の認定を申請する試験事業者は、認定の前に、認定に係る試験方法等の区分の特性等による括りのうち、少なくとも一つの申請に係る試験手法等の区分について、5.1 で定める技能試験又は測定監査の何れかに参加し、満足な結果を収めなければならない。
(2) JNLA の登録を申請する試験事業者は、ISO/IEC 17025:2005 5.9 項で定める試験・校正結果の品質の保証の一環として、登録の前に、登録に係る試験方法等の区分の特性等による括りのうち、少なくとも一つの申請に係る試験手法等の区分について、5.1 で定める技能試験又は測定監査の何れかに参加することが望ましい。これらの技能試験又は測定監査に参加したときは、満足な結果を収めなければならない。
(3) JNLA の認定試験事業者は、6.1 で定める「技能試験参加計画」を作成すると共に、これに基づき、継続的に 5.1 で定める技能試験又は測定監査に参加し、満足な結果を収めなければならない。また、6.3 で定める方針に適合しなければならない。
(4) JNLA の登録試験事業者は、ISO/IEC 17025:2005 5.9 項で定める試験・校正結果の品質の保証の一環として、6.1 で定める「技能試験参加計画」を作成すると共に、これに基づき、継続的に 5.1 で定める技能試験又は測定監査に参加することが望ましい。また、これらの技能試験又は測定監査に参加したときは、満足な結果を収めると共に、6.3 で定める方針に適合しなければならない。
(5) 適切な技能試験がない又は現実的でない分野における代替手法に関する事項は、この規程の 8.で別に定める。
注記 1:7.3 (1)から(4)において、5.1 d)で定める技能試験・測定監査のうち、技能試験提供者から IAJapan に結果を通知することがあらかじめ確保されているものは、その報告書の適切性は IAJapan によって確認されているものとみなす。
注記 2:7.3 (5)で定める技能試験が現実的でない分野の代表例は、現地審査時に JNLA 製品試験の模擬試験を行い、その試験手順の定性的な評価又はその結果の定量的な評価を以て十分に技術的能力を有することが判断できるケースである。このような場合、JNLA の認定・登録を申請する試験事業者又は JNLA 認定・登録試験事業者は、その事業者のパフォーマンスが評価され監視される代替手法(現地審査における模擬試験の結果の評価など。)について、なるべく初回認定・登録時までに、IAJapan と合意することが望ましい。
7.4 ASNITE における技能試験要求事項の適用方針
(1) ASNITE の認定を受けようとする試験事業者(製品認証機関の試験所を含む。)、校正事業者又は標準物質生産者は、認定を取得する前に、認定に係る校正若しくは測定方法等の区分又は試験方法の特性等による括りのうち、少なくとも一つの申請に係る試験、校正又は測定手法等の区分について、5.1 で定める技能試験若しくは測定監査又は 5.2 A)で定める試験所間比較の何れかに参加し、満足な結果を収めなければならない。
(2) ASNITE の認定事業者は、6.1 で定める「技能試験参加計画」を作成すると共に、これに基づき、継続的に 5.1 で定める技能試験若しくは測定監査又は 5.2 A)で定める試験所間比較
に参加し、満足な結果を収めなければならない。また、6.3 で定める方針に適合しなければならない。
(3) 適切な技能試験がない又は現実的でない分野における代替手法に関する事項は、この規程の 8.で別に定める。
注記 1:7.4 (1)及び(2)において、5.1 d)で定める技能試験・測定監査のうち、技能試験提供者から IAJapan に結果を通知することがあらかじめ確保されているものは、その報告書の適切性は IAJapan によって確認されているものとみなす。
注記 2:7.4 (3)で定める技能試験が現実的でない分野の代表例は、認定区分「情報技術-コモンクライテリア評価」や、環境等分野における幾つかの試験方法の区分である。情報技術-コモンクライテリア評価の場合、ASNITE の認定を申請する試験事業者又はASNITE 認定試験事業者のパフォーマンスが評価され監視される代替手法(別の目的で実施される試行評価で良好な成績を収めた評価者による評価結果の監視。)を、一般要求事項で定めている。また、環境等分野においては、ASNITE の認定を申請する試験事業者又は ASNITE 認定試験事業者は、その事業者のパフォーマンスが評価され監視される代替手法(例えば、比較の種類や手法を特定した 5.2 B)で定める試験所間比較の結果の評価など。)について、なるべく初回認定時までに、IAJapanと合意することが望ましい。
8. 適切な技能試験がない又は現実的でない分野における代替手法に関する
方針
5.1 で定める技能試験若しくは測定監査又は 5.2 A)で定める試験所間比較が存在しない場合、類似の方法に係る技能試験は存在しているが技能試験品目とその事業者が最も一般的に取り扱う試験・校正・測定品目との乖離(かいり)が著しくその技能試験が適切といえない場合、付与値の確定だけで著しく高額な経費を要する場合等、適切な技能試験がない又は現実的でない分野においては、技能試験等への参加に代えて、事業者のパフォーマンスを評価し、監視するための代替手法について、IAJapan と事業者は合意しなければならない。
この合意の対象となる代替手法には、例えば次のようなものがありうるが、これらに限定されない。
・NMI(国家計量標準研究所)以外を対象として実施される、5.2 A)で定める特定の NMI(国家計量標準研究所)との相互比較(bilateral comparison)。
・5.1 で定める技能試験又は測定監査の実施が不可能である又は現実的でないことから、それらの代替手法として実施される、5.2 B)で定める試験所間比較、模擬試験又はその他の手法。
この合意は、現地審査又は検査において IAJapan の審査チームリーダーと事業者の代表者による署名により交わされるか、又はこれに類似する方法により IAJapan のプログラムマネージャー等と事業者の代表者による署名により交わされなければならない。
審査チームリーダーと事業者の代表者との合意例は、附属書 C を参照すること。
9. 技能試験参加計画についての IAJapan からの情報提供に関する方針
IAJapan は、試験事業者、校正事業者及び標準物質生産者が、技能試験参加計画を策定することを支援するため、次に掲げる情報を提供する。
9.1 技能試験提供者の一覧又は案内
IAJapan の認定・登録プログラムごとのホームページに、最新の技能試験提供者の一覧又は案内を掲載する。詳細は、IAJapan ホームページを確認すること。
なお、平成 23 年 7 月末日までに、IAJapan による活用実績がある技能試験提供者の一覧は、附属書 D を参照すること。
注記:附属書 D に掲げる技能試験提供者が、平成 23 年 8 月 1 日以降に提供する技能試験については、5.1 d)で定める IAJapan による確認が、別途必要となる。
9.2 適切な技能試験プログラム又は参加頻度を選択するために考慮すべき事項
我が国においては欧米諸国と異なり、事業者が選択できるほど十分な数の技能試験プログラムは、現在市場に提供されていない。したがって、ここで述べる考慮すべき事項は、あくまでも参考である。
(1) 校正分野(JCSS 及び ASNITE)では、認定・登録区分のうち、CMC(最高測定能力、又は、校正及び測定能力)が小さなもの、校正件数の多いもの、校正技術として難易度が高いもの等について、優先して受けておくことが望ましい。また、同一の区分で複数の異なる計量器等の種類の技能試験プログラムが提供されているときは、まず計量器等の種類“A”で技能試験に参加し、次の技能試験では計量器等の種類“B”に参加することで、その区分全体の技術的能力を客観的に立証することが可能となる。参加頻度については、分野別の技術的要求事項適用指針に定めがある場合には、これに従うことが極めて望ましい。
(2) 試験分野(JNLA 及び ASNITE)では、技能試験の参加頻度については、分野ごとの相場観に依存するであろう。例えば、一般的な JNLA 製品試験であれば、技能試験の参加頻度は 4 年に一回程度で十分かもしれないが、APLAC PT 006 Issue No. 2, 09/10 では、技能試験頻度ベンチマークは、臨床分野(分野ごと)では10 回/年、生物学分野・化学分野(環境及び無機分析)では 2 回/年、法医学分野・獣医学分野・化学分野(その他)では 1 回/年と定めている。認定試験事業者は、このような特殊な試験分野においては、技能試験頻度ベンチマークを参考として、自らの試験結果の品質保証に適した頻度で、技
能試験に継続的に参加することが望ましい。
9.3 技能試験ニーズの分析及び策定のための指針(ILAC P9:11/2010 4.5 項)
– 事業者が日常の業務の中で最も一般的に取り扱う試験・校正・測定品目と、技能試験提供者が提供する情報で記述されている技能試験品目との互換性を考慮する。
– 技能試験は、事業者のパフォーマンスの評価だけではなく、教育及びリスクマネジメントのツールとしても利用可能であり、その事業者の包括的な品質保証手順にも拡張することができる。
– 標準物質の値付け、方法の妥当性確認活動を通して得られた情報等が、事業者の能力に係る有用な情報ソースとして検討されることがある。
10. 技能試験提供者に対する IAJapan からの情報提供等に関する方針
10.1 IAJapan からの情報提供IAJapan は、ILAC P13:10/2010 2.1 項に基づき、技能試験スキームの企画・調整に関して技能試験提供者に助言することができることとされている。この助言は、事業者の能力に関する情報を得るために技能試験を用いる利害関係者としての意見に限られ、技能試験提供者に対するコンサルタントになってはならないとされている。
また、この助言は IAJapan の公平性に抵触しないよう、公平な方法で述べられなければならないこととされており、原則として IAJapan の認定・登録プログラムごとのホームページで公開することとなる。
これらの情報提供の詳細は、IAJapan ホームページを確認すること。
10.2 IAJapan による技能試験提供者の委員会への参加
パフォーマンスの評価(ISO/IEC 17043 4.7.2.1)、最終報告書の承認(同 4.8.1)、また必要な場合は技能試験スキームの計画(同 4.4.1.2)を検討するための技能試験提供者が設置した委員会に、IAJapan 職員が参加して、技能試験を用いる利害関係者としての意見を述べることができる。
このような委員会への IAJapan 職員の参加を希望する技能試験提供者は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下「機構」という。)が別に定める規程に基づき、委員就任依頼を機構の理事長及び委員本人あてに行わなければならない。
10.3 IAJapan が保有する技能試験品目の技能試験提供者への貸与
校正分野において、IAJapan は幾つかの技能試験の用に供する機械器具等(技能試験品目)を保有している。技能試験プログラムを実施することを目的として、このような技能試験品目の貸与を希望する技能試験提供者は、IAJapan が別に定める規程に基づき、IAJapan が発行する「技能試験用機械器具等貸付書」2 通に必要事項を記載のうえ、これらの技能試験品目の貸与を受けることができる。
附則
1. この規程は、平成 23 年 8 月 1 日から施行する。
附則(経過措置)
1. この規程の 3.で定める引用規格のうち、JIS Q 0043-1:1998 及び JIS Q 0043-2:1998の適用は、JIS Q 17043 が制定され、これらの規格が廃止される日までとする。
2. この規程の施行前に、この規程の 3.で定める引用規程に掲げる JCSS、JNLA 又はASNITE に関する各一般要求事項の技能試験に関する条項を引用しているマネジメントシステム文書をもつ、認定された試験事業者、校正事業者又は標準物質生産者は、平成 24 年 3 月末日までの期間は、この規程の施行後の関係要求事項に基づく該当規定があるものとみなす。
附属書 A(参考)技能試験に関する国際要求事項及び地域要求事項の概要
A.1 ILAC P9 に基づく技能試験に関する要求事項の概要
ILAC P9:11/2010 の 4.2 項では、試験事業者又は校正事業者の認定・登録範囲に基づく最小限の技能試験活動は、次のように定めている。
・技能試験が利用可能かつ適切である場合は、認定・登録を取得する前の満足な参加の証拠
・試験事業者又は校正事業者の認定・登録範囲に対して適切であり、かつ、技能試験参加計画と整合している継続的活動
また、ILAC P9:11/2010 の 4.3 項では、認定・登録された試験事業者又は校正事業者による技能試験活動への参加の最小限の水準及び頻度に関する要求事項として、技能試験参加ニーズを含むこととされ、これは次のように定めている。
・技能試験参加計画は、試験事業者又は校正事業者によって策定され、職員の数、方法論、使用する測定器等の変更に応じて常に見直されなければならない。
なお、認定・登録された試験事業者又は校正事業者が技能試験参加ニーズを特定し、参加計画を策定するためには、これを支援する情報が必要であるが、ILAC P9:11/2010 の4.5 項では、認定機関が提供することができるものとして、次のように定めている。
・技能試験提供者(IAJapan を含む。)の一覧又は案内、及び適切なプログラムを選択するために考慮すべき事項
・試験事業者又は校正事業者に特有の技能試験ニーズを、どのように分析し、及び策定するかに関する指針
A.2 APLAC TC008 に基づく技能試験に関する要求事項の概要
APLAC TC008 Issue No. 3, 09/10 の 3.11 項 d)では、標準物質生産者の技能試験活動は、次のように定めている。
・標準物質の特性値の測定不確かさ及び妥当性に大きく影響する試験、校正又は測定をするときは、標準物質生産者は、その試験、校正又は測定について、ILAC P9 で要求される技能試験プログラムに参加しなければならない。
・認定された事業者が下請負契約者として試験、校正又は測定をするときは、その下請負契約者は、その試験、校正又は測定について、ILAC P9 で要求される技能試験プログラムに参加しなければならない。
・認定されていない下請負契約者においても、同様に、技能試験又はその他の同等の手法によって能力を実証しなければならない。
附属書 B(参考)技能試験参加計画の作成例
B.1 技能試験参加計画(記録)の作成例(JCSS)
技能試験参加計画(5 か年計画)
○○計器株式会社 JCSS 校正室
登録
区分
校正手法の区分 計量器等の種類
参加を予定している年度
2011 2012 2013 2014 2015
長さ 波長計量器 633 nm 領域の波長 ● ●
一次元寸法測定器 ブロックゲージ ●
標準尺 ●
質量 分銅等 分銅、おもり ● ●
はかり 電子式非自動はかり ● ●
温度 接触式温度計 抵抗温度計 ● ●
熱電対 ●
指示計器付温度計 ●
※1 この計画は、年 1 回、内部監査及びマネジメントレビューの結果を踏まえて見直す。
※2 この計画どおりに技能試験に参加できなかったときは、その理由を記録する(記録例:
IAJapan がホームページで公表した平成 23 年度 JCSS 技能試験計画どおりに、JCSS技能試験が実施されなかったため。)。
作成者 審査者 承認者
担当者 校正従事者 技術管理者 技術管理者
日付 /030303/252525 /030303/292929 /030303/292929
捺印
加喜久啓子 阿井 上雄 阿井 上雄
※ 作成上の注意:紙媒体の記録では、最下欄の (少なくとも技術管理者)は手書きで記入され、印鑑が捺印される。電子媒体の記録では、承認日とファイル更新日時が著しく乖離しているときは、その乖離の理由は、IAJapan の審査・検査において開示され、その合理性及び当該記録が改ざんされていないことが立証されなければならない。
B.2 技能試験参加計画(文書化された記述)の作成例(JNLA)
5.9 試験結果の品質保証
5.9.1 一般財団法人○○試験センターJNLA 試験室が実施する、JNLA 製品試験が技術的に適切であることを検証するため、試験結果の品質保証を次のとおり行う。
(1) JNLA 土木・建築分野のうち、骨材試験及びコンクリート・セメント圧縮試験について、4年に一回、IAJapan 技能試験に関する方針(URP24)に適合する技能試験又は試験所間比較に参加する。
(2) 略((1)と同じような規定が、JNLA の分野ごとに記述されることが望ましい。)
印印印 印印印 印印印
附属書 C(参考)審査チームリーダーと事業者の代表者との合意例
技能試験等の代替手法に関する確認書 No. 1/1
下記は、IAJapan 技能試験に関する方針(URP24)に基づき、適切な技能試験がない又は現実的でない分野において、技能試験等への参加に代えて、事業者のパフォーマンスを評価し、監視するための代替手法として、審査チームリーダーと事業者の代表者との間で合意したものです。こ(れら)の代替手法が最終確定した後は、事業者は、こ(れら)の代替手法に従って、試験所間比較へ
の参加その他の試験、校正又は測定を実施しなければなりません。
次回の審査・検査の際には、こ(れら)の代替手法によって実施した試験、校正又は測定の結果について、現地で確認いたします。
識別・認定番号及び
審査・検査対象事業所名
S 9999
一般財団法人○○試験センターJNLA 試験室
区分
○○材料圧縮強度試験、○○材料引張試験、○○材料
曲げ試験
審査・検査年月日
平成 23 年 12 月 15 日
平成 23 年 12 月 16 日
担当審査員氏名
佐志寿世素
館 津手都
No 要求事項該当項目 代 替 手 法
1 ISO/IEC 17025:2005
5.9.1 b)
○○材料引張試験について、一般社団法人○○総合試験所 JNLA 試験センターとの試験所間比較を、◎年に
一回の頻度で行う。試料は、持ち回りで互いに準備する。
パフォーマンスの評価は、ISO/IEC 17043 附属書 B の
B.3.1.3 の a)又は b)で行うものとし、評価基準は毎回行う前
に、当事者間で合意して決定する。
上記の代替手法に合意したことを確認します。
平成 232323 年 121212 月 161616 日
事業者の責任者名
審査チームリーダー氏名
審査員への注意:署名は容易に書き換えできない報告書に行うこと。以下余白の部分には〆を記入のこと。通しページ番号を必ず記入のこと。
※ 作成上の注意:この確認書は、代替手法を採用する区分についてのみ作成すること。
技能試験に参加できる区分に関する確認書は不要である。
※ 代替手法欄には、代替手法の詳細(周期、評価方法、評価基準等)を記述すること。
※ この確認書の様式は、予告なく改正されることがある。このため、各事業者が実際に代替手法の内容について合意するときの様式とは異なる場合がある。
附属書 D(参考)IAJapan による活用実績がある技能試験提供者の一覧
平成 23 年 7 月末日までに、IAJapan による技能試験プログラムの活用実績がある技能試験提供者は、認定・登録プログラムごとに、それぞれ次のとおりである。
D.1 MLAP
認定の区分 技能試験提供者の名称
ダイオキシン類の濃度 社団法人日本環境測定分析協会(注記)
注記:技能試験提供者が提供する MLAP 技能試験は、7.1 注記により、IAJapan の確認は不要である。
D.2 JCSS
登録に係る区分 技能試験提供者の名称
長さ、力、音響・超音波 一般財団法人日本品質保証機構
質量 社団法人日本計量機器工業連合会
温度、電気(直流・低周波) 日本電気計器検定所
電気(直流・低周波)、電気
(高周波)
一般社団法人電子情報技術産業協会
質量 公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)
(注記)
長さ、質量、電気(直流・低周波)、電気(高周波)、
流量・流速
Korea Laboratory Accreditation Scheme(KOLAS)
(注記)
注記:ILAC/MRA 署名認定機関である JAB 及び KOLAS が技能試験提供者として提供する技能試験は、5.1 b)により、IAJapan の確認は不要である。
D.3 JNLA
試験分野 技能試験提供者の名称
複数分野 公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)
(注記)
Korea Laboratory Accreditation Scheme(KOLAS)
(注記)
土木・建築分野 財団法人建材試験センター
株式会社太平洋コンサルタント
繊維分野 一般財団法人日本繊維製品品質技術センター
抗菌分野 社団法人繊維評価技術協議会
一般社団法人抗菌製品技術協議会
電気分野 一般財団法人電気安全環境研究所
注記:ILAC/MRA 署名認定機関である JAB 及び KOLAS が技能試験提供者として提供する技能試験は、5.1 b)により、IAJapan の確認は不要である。
D.4 ASNITE
なし。
附属書 E(参考)技能試験結果のパフォーマンスの評価について
E.1 付与値(assigned value)の決定方法の選択(ISO 13528 5.1)
ISO/IEC 17043 の附属書 B(参考)技能試験の統計手法では“技能試験の結果の分析に用いる統計手法は、この規格(ISO/IEC 17043)で規定するにはあまりに多様であり、それぞれの状況に合った個別の推奨方法は ISO 13528(JIS Z 8405)に記載している。”と述べている。
一方、ISO 13528 の 5.1 では、付与値の決定方法の選択について定めている。これによれば、“健全な統計的基礎を備え、(技能試験)スキームの計画を文書によって示している方法がある場合は、その方法を用いてもよい。”とされている。
この附属書 E では、主として APLAC、JCSS、JNLA 等の技能試験において一般的に用いられてきた統計手法のうち、ISO 13528 又は ISO/IEC 17043 であまり触れられていない事項を中心に述べる。
E.2 z スコア
E.2.1 頑健な統計手法
ISO 13528 の附属書 C(規定)では、ロバストな解析(robust analysis)を定めているが、より古典的な“頑健な統計手法(robust statistical technique)”として、求める統計量に対して極端な結果(extreme results)の影響を最小化するため、極端な結果の影響を受けやすい平均値及び標準偏差を用いる代わりに、メジアン及び正規四分位数範囲をデータの代表値として用いる方法がある。この統計手法は、正規分布を前提とする。
《事例》
例えば、頑健な統計手法を用いる事例として、下表の 9 つのデータを技能試験の結果として得た場合は、これらのデータ群の代表値として平均値を求めると、極端な結果“363636”の影響を受けて 7.44 となる。一方、メジアンを求めると 4.0 となり、このような場合はメジアンをデータ群の代表値として用いる方が適切である。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 平均値 メジアン
3.5 3.2 4.0 3.8 4.25 36 363636 3.1 4.4 4.7 7.44 4.0 4.04.0 4.0
E.2.2 要約統計量として用いる各統計量の定義
頑健な統計手法を用いる場合、一般的に「結果の数」、「メジアン」、「正規四分位数範
囲」、「頑健変動係数」、「最大値」、「最小値」及び「範囲」を要約統計量として用いる。これらの用語及びこれらを補足する用語の定義又は説明は、次の表 E.1 のとおりである。
表 E.1 データ解析に係る各統計量の定義又は説明
統計量 定義又は説明
結果の数 統計解析に含まれる試験結果の数
メジアン(median) 試験結果のデータにおける中央値
四分位数
(quartile)
昇順に整列させたデータを四等分する値をいい、小さい方から順に
第 1 四分位数(25 %点)、第 2 四分位数(50 %点)、第 3 四分位数
(75 %点)という。四分偏差、四分位偏差とも呼ばれる。第 2 四分
位数はメジアンとなる。
四分位数範囲
(interquartile range)
データのばらつきを表す尺度の一つであって、第 3 四分位数(75 %
点)から第 1 四分位数(25 %点)を引いた値(以下「IQR」という。)。
正規四分位数範囲
(normalised IQR)
IQR に正規分布と関係付けるための係数(0.7413)
(注記)を乗じた値
(以下「NIQR」という。)。
頑健変動係数(%)
(robust coefficient
of variation)
NIQR をメジアンで除し、百分率で示した値。これは比率として算出
されるため、異なるサンプル又は試験間におけるデータのばらつき
を相対比較するための指標となる。
最大値(maximum) 試験結果のデータにおける最大の値
最小値(minimum) 試験結果のデータにおける最小の値
範囲(range) 最大値から最小値を引いた値
注記:この係数は、標準正規分布(平均値 0、標準偏差 1 の分布)に基づく。この標準正規分布の IQR は[-0.6745, +0.6745]の範囲であり、この幅を標準偏差相当に換算するためにIQR を 1.3490 で除す(又は 0.7413 を乗じる。)。
E.2.3 頑健な z スコア及びそのパフォーマンスの評価
(1) 頑健な z スコア
頑健な統計手法に基づく z スコアを用いて結果のパフォーマンスの評価を行う。この zスコアは、各結果に対してスコア(得点)を与える規準化した値(E.2.4 参照)であり、グループ内の他の試験所の値との相対的な比較を行うものとして用いる。 z スコアが 0 に近いと、その他の試験所の値とよく一致した結果であることを示す。
(2) z スコアのパフォーマンスの評価
z スコアのパフォーマンスの評価は、次のとおりである。
z ? 0.2
:“満足”
0.2 < z < 0.3 :“疑わしい” 0.3 ? z :“不満足” (3) (単独) z スコア、試験所内 z スコア(ZW)及び試験所間 z スコア(ZB) 結果の評価に用いる z スコアの種類は、その技能試験プログラムにどのような統計的な設計を取り入れるかにより決定する。 まず、1 サンプルからの単独の結果を評価対象として取り扱う場合は、その結果に対する要約統計量(メジアン及び NIQR)を用いて、各試験所の結果の(単独) z スコア(E.2.4 参 照)を算出する。パフォーマンスの評価は前述(2)のとおりである。ただし、例えば“不満足”と判定された場合に、次に述べる一対のサンプルの場合のように、試験所内変動に起因するものなのか、試験所間変動に起因するものなのか、これらの両方に起因するものなのか、といったことは判断できない。 次に、この 1 サンプルによる場合とは別に、一対のサンプルから得られる一対の結果を用いる場合があり、この場合は「結果の変動」を、「同一試験所内(within-laboratory)の変動」と「異なる試験所間(between-laboratories)の変動」に分解して、それぞれ解析・評価を行うことができる。一対のサンプルとしては、通常、特性の水準を僅かに変えたサンプル (以下「スプリットレベルサンプル」という。)がよく用いられるが、この他にスプリットレベルサンプルが用意できない場合には、全く性状が同等な 2 個のサンプル(以下「同等サンプル」という。)が用いられる場合もあり得る。そしてこれらの各変動を評価する場合の z スコアの計算は、「同一試験所内の変動(繰返し性)」については「一対の結果の標準化した差」に 対する z スコア(試験所内 z スコア:ZW)、「異なる試験所間の変動(再現性)」については「一対の結果の標準化した和」に対する z スコア(試験所間 z スコア:ZB)を用いる(E.2.4 参照)。これらの場合に用いる要約統計量は、標準化した差又は和に対する全参加試験所のメジアン及び NIQR である。パフォーマンスの評価は前述(2)のとおりである。 注記:試験所内 z スコア(ZW)及び試験所間 z スコア(ZB)は、スプリットレベルサンプル又は同等サンプルの場合のみ、スコアを正しく評価することができる。特性の水準が大きく異なるサンプルでこれらのスコアを計算した場合、正しく評価できないので注意すること。 (4) 試験所内 z スコア(ZW)及び試験所間 z スコア(ZB)の性質 試験所間 z スコアが“3≦ZB”となった場合は、一対の結果のうちの一方又は両方が、その付与値(メジアン)よりもかなり大きすぎることを示している。逆に、試験所間 z スコアが“ZB≦-3”となった場合は、一対の結果のうちの一方又は両方が、その付与値(メジアン)よりもかなり小さすぎることを示している。 一方、試験所内 z スコアが“3≦ZW”となった場合は、(試験所内の)二つの結果の差がかなり大きすぎることを示している。逆に、試験所内 z スコアが“ZW≦-3”となった場合は、(試験所内の)二つの結果の差がかなり小さすぎるか、二つの結果の大小関係が、それらの付与値(メジアン)の大小関係と反対になっていることを示している。 (5) バーチャート z スコアによるパフォーマンスの識別を容易にするため、 z スコアの値を昇順に整列化し、これらの値を参加試験所コードに対してグラフ化したバーチャートが用いられる。 (6) ユーデン図 ユーデン図は、一対のサンプルからの一対の結果に対するパフォーマンス等の識別・解釈を視覚的に容易にするために用いられる。この図は、参加試験所毎に 1 番目のサンプルの結果に対して、2 番目のサンプルの結果をプロットしたものである。 この図には、全参加試験所の一対の結果に対する 2 変量解析から得られる 95 %信頼楕円も示されている。“不満足”な結果(±3σ領域外)を出した試験所はこの信頼楕円の外部に位置し、他の試験所から明確に区別される。またこの信頼楕円の信頼率は約 95%であるため、“疑わしい”結果(±2σ領域外だが±3σ領域内)を出した試験所も同様に信頼楕円の外部に位置することになる。 一般的に系統誤差(試験所間変動)による“不満足”な結果は、このユーデン図上で両サンプルのメジアンを通る座標軸を仮想すれば、その右上部(又は左下部)象限の信頼楕円長軸方向(座標軸に対して約 45°方向)の周辺に沿って位置する。系統誤差としては、 例えば試験機器類に起因する偏り・正しい(指定された)試験方法からの逸脱による偏り等が考えられる。 一方、偶然誤差(試験所内変動)による“不満足”な結果は、この信頼楕円の長軸(座標軸に対して約 45°方向)からの距離が大きく離れたところに位置し、両サンプルのメジアンを通る座標軸を仮想すれば、”たいていの場合は”左上部(又は右下部)の象限のどちらかに位置する。偶然誤差としては、例えば測定者による誤差、試験環境から受ける影響等の不特定な要因に起因する誤差が考えられる。 E.2.4 各統計量を求める式 試験結果の数が N 個のデータを、最小値から最大値へ 1 x , 2 x ... N x と昇順に整列させて いるものとする。 (1) メジアン(median) メジアン X は、 N が奇数なら 1 つの中央の数値とし、 N が偶数なら中央の 2 つの値の平均とする。小数部分が出る場合は、データ間をその割合で内挿により補間して求める。 ( ) ? ? ? ?  ? + ? = 1 4 2 N 1 X x つまり、 ( ) 1 4 2 1 + N ? 番目のデータ x を示す (2) 四分位数範囲(IQR:interquartile range) 第 1 四分位数(25 %点)を Q1 、第 3 四分位数(75 %点)を Q3 とすると、 Q3 Q1 IQR = ? ここで、 ? ? ? ?  ? + ? = 1 4 1 N 1 Q x つまり、 1 4 1 + N ? 番目のデータ x を示す ( ) ? ? ? ?  ? + ? = 1 4 3 3 N 1 Q x つまり、 ( ) 1 4 3 1 + N ? 番目のデータ x を示す なお、小数部分が出る場合は、データ間をその割合で内挿により補間して求める。 (3) 正規四分位数範囲(NIQR:normalised IQR) 正規四分位数範囲 s は次式で表される。 s = (Q3 ? Q1 )× .0 7413 (4) 正規四分位数範囲(NIQR)の補正 ISO 13528 の附属書 B(規定)の B.2 では、均質性試験の結果は、次式を満たす必要があると定めている。 3.0 σ? s S ? ここで、 S s :試料間標準偏差 σ? :技能評価のための標準偏差(E.2.4 では NIQR) この式を満たさない場合は、ISO 13528 の附属書 B(規定)の B.2 c)に基づき、次式によ りσ? を補正する。 2 S 2 1 σ? = σ? + s ここで、 1 σ? :試料の不均質性に許容度を含まない技能試験の標準偏差 (5) 頑健変動係数(Robust CV:robust coefficient of variation) 頑健変動係数 RCV (%)は次式で表される。 = ×100 X s RCV (6) 範囲(range) 最大値を maximum x 、最小値を minimum x とすると、範囲 range x は次式で表される。 range maximum minimum x = x ? x (7) 頑健な(単独) z スコア i 番目の試験所から提出された試験結果 i x の(単独) z スコアを i z とすると、 s x X z i i ? = (8) 頑健な試験所間 z スコア(ZB)及び試験所内 z スコア(ZW) i 番目の試験所から提出された試験結果 i a と i b の標準化した和を i S 、これらの結果の標準化した差を Di 、これらのメジアン及び NIQR をそれぞれ S と D 及び S s と D s 、 i S の頑健 な試験所間 z スコア(ZB)を ZBi 、 Di の頑健な試験所内 z スコア(ZW)を ZWi とすると、 i S 、 Di 、 ZBi 及び ZWi は、それぞれ次のとおりである。 2 i i i a b S + = 2 i i i a b D ? = ( i i X a > X b の場合) 又は
2
i i
i
b a
D
?
= (
i i
X b > X a の場合)
ここで、
i
X a は i
a のメジアン、
i
X b は i
b のメジアンである。
S
i
i
s
S S
ZB
?
=
D
i
i
s
D D
ZW
?
=
E.3. En 数
E.3.1 En 数及びそのパフォーマンスの評価
(1) En 数
En 数は、ISO/IEC 17043 や ISO 13528 に定めがあるが、校正分野における技能試験
スキーム(測定比較スキーム)で、最も一般的に用いられる評価手法である。 En 数は次式
を用いて計算される。
2
ref
2
Ulab U
x X
En
+
?
=
ここで、 x :参加者の結果
X :付与値
Ulab :参加者の結果の拡張不確かさ
Uref :参照試験所の付与値の拡張不確かさ
(2) パフォーマンスの評価
En 数のパフォーマンスの評価は、次のとおりである。
En ? 0.1 :“満足”
En > 0.1 :“不満足”
以 上